安静時の心拍が下がらない

 
報告者:西埜 義則(にしのカイロプラクティック院

2010.8.22

【患者様】 40代男性 トライアスリート
【既往歴】 自転車での転倒による左鎖骨骨折など
【主訴】 安静時の心拍が下がらない
【緩和要素】 自転車事故から長年痛めていた左顎なので元々弱いから仕方ないこともあるのだけど、今回の痛みで食事を摂るのも不自由なので何とかしたいとの訴え。
【その他症状】 両側の下腿三頭筋の張り
【施術手順】 2010年3月に中国 海南島で開催された「Ironman中国レース」に参加された、トライアスリートの「安静時心拍数が下がらない」と、いう 症例です。

術 者    「試合の結果はいかがでしたか?」

患者さま   「自分では良い結果でしたが、後もう少しで本戦にいけたのに・・・残念」
術 者    「体調は順調に回復していますか?」
患者さま   「起床時の安静時心拍が53~54回/分と高くて下がらないんです。」
術 者    「普段はどのくらいですか?」
患者さま   「47回/分です。」

トレーニングを積まれたアスリートに、心拍数が少ないということは稀ではありません。

「ハード(身体)面」のアプローチとして、先ずはアクティベータ・メソッドによるカイロプラクティック・ケアをおこなうことにしました。
その後、主訴である「心拍数が下がらない」という状況をイメージしていただくと、神経反射による筋力抵抗検査に顕著な陽性反応を示しましたので、心身条件反射療法のプロトコルに則って、心拍数を上げている原因を「ソフト(こころ)面」から調べていきました。

術 者    「いつ頃から違和感を感じましたか?」

患者さま 「飛行機に乗っていて、関空に到着する頃です。」
術 者 「どんなことを感じていましたか?」
患者さま 「ランの時にあぁすれば良かったとか・・・」
術 者    「その時のことをイメージしながら検査していきましょう。」

「からだとこころ」の関係性について、どういったことが「脳・神経系」のはたらきにアンバランスを引きおこしているのかを検査していくと、「五感→聴覚→物音」という項目に反応を示しました。

術 者    「聴覚で物音に反応しますが、何か心覚えはありますか?」

患者さま   「いやぁ、思いつかないなぁ。」
術 者    「走っているときに聞こえる物音っていうと・・・」
患者さま   「後ろから抜かれるときのランナーの足音かなぁ。」

そのことをイメージしていただきながら、神経反射による筋力抵抗検査をおこなうと、大きな反応を示しました。イメージングで、「脳・神経系」のはたらきが乱されて、それが「ストレスの要素」として身体に悪影響をあたえているということです。これを症状を引きおこす「緊張パターン」といいます。

術 者    「その足音を、何か心地よい音に置き換えることはできますか?」
患者さま   「うぅ~ん、太鼓の音かなぁ。」

そのことをイメージしていただきながら、神経反射による筋力抵抗検査をおこなうと、神経バランスは保たれて、十分抵抗することができました。これを「リラックス・パターン」といいます。
心身条件反射療法では、「緊張パターン」から「リラックス・パターン」へ思考パターンを切り替えることで、症状の原因となる「ストレス要素」を「ストレス」に感じないように、脳に新しく学習させることが目的です。
この患者さまの「緊張パターン」である「足音」を、「リラックス・パターン」である「太鼓の音」に置き換えることで、新しい思考パターンに切り替わるように調整をおこないました。
確認のための再検査で、「後ろから抜かれるときのランナーの足音」を大げさにイメージしていただいて、神経反射による筋力抵抗検査をおこないました。すると、施術前には抵抗できなかった筋力抵抗検査でしたが、神経バランスは保たれて、しっかりと保持することができました。
これで、競技後にもストレスとして記憶されていた感じ方から解放されたことが確認されましたので、心身条件反射療法の施術を終えました。
このような手順でアンバランスを起こしていた「からだとこころ」の関係性を、患者さまと一緒に協力し合って、バランスのとれた状態に調整することができました。

【施術結果】 2日後、患者さまの心拍数は平常通りに安定し、安心してトレーニングをすることができているというご報告をいただきました。現在、山を走る競技「トレイル・ラン」にチャレンジし、毎日のトレーニングも楽しんでいらっしゃいます。

【考察】 この患者さまのケースは、「競技中のストレス」が自律神経系へ悪影響を与えた結果、心拍数を上昇させていたと考えられます。「抜かれたくない。」「先にゴールしたい。」という気持ちが、交感神経系を優位に働かせたために、「闘うモード」から「休息モード」に上手に切り替わらなかったようです。
「後ろから抜かれるときのランナーの足音」を、「太鼓の音」に置き換えるという一見ユニークな方法でしたが、「リラックス・パターン」へと切り替えることができました。
一つの方向に傾いた患者さまの感じ方に柔軟性を持たせることで、新しい神経ネットワークが構築されて、自律神経系の働きが本来の機能を取り戻すことができたと考えられます。