野球肩

 
報告者:菊地 光雄カイロプラクティック・コンディショニング・ルーム・K
 

【患者】 高校2年生 男性 硬式野球 ポジション:サード
野球歴:小学5年生から軟式野球を始める。高校入学と同時に硬式野球を始める。その後現在に至る。

【主訴】 約1年前から野球の練習で投球をすると右肩と右肘の痛みを発症する。初検時は投球を休止して他の練習は参加していた。10m以内の短い距離の軽いキャッチボールは可能。サードからファーストへの投球は不可能。

【病歴】 過去に何度か痛くなったことがあり、そのつど整形外科を受診ししばらく安静(投球休止)をしていて、回復すると練習参加することの繰り返しをしていた。

整形外科でレントゲン検査異常なし。Overuse syndromeによっておこるインピンジメントによるローテータカフの損傷である「野球肩」の診断名を受ける。専門スタッフがいる野球教室で投球フォーム、ローテータカフの強化目的の筋力トレーニングなどのリハビリを行う。

痛みが無くなり練習に復帰し、投球を再開すると再発し、再度投球休止しリハビリを行うの繰り返しで1年間を過ごした。

【初診日07年6月4日】 初検時の右肩関節の可動域検査で可動域の減少を確認する。内旋外旋、投球動作で痛み誘発する。棘上筋、棘下筋に硬結と圧痛あり。シャドーピッチング時に痛みが誘発される。

基準はないが両手指が接触することを正常として評価する。この検査時にも右肩の痛みは誘発される。

【治療1】 治療1は身体の、神経機能異常の改善を目的としアクティベータメソッドカイロプラクティック・テクニック(以下AMCT)で神経機能異常を改善した。

写真3,4はAMCT治療後の右肩関節可動域の改善した写真である。

AMCT治療後は両手指が接触する。治療後の検査時には痛みはなくなった。シャドーピッチングでも痛みはない。

【治療1終了後の評価】 AMCTによって身体の神経機能異常を改善し、神経と筋肉の協調性を整えるだけでも右肩関節の可動域の改善及び内旋、外旋、シャドーピッチング時の誘発された痛みは消失した。

治療の結果が問われるのは現場である。オフィスで痛みが取れても現場で痛みが再発したのでは治ったとはいえない。この患者の既往歴から判断すると現場(グランドで投球)にでると再発することは予測できる。機械論的に考えると可動域が改善し、インピンジメントの症状が取れれば投球できるとか投げるが、この投球時の痛みの本質的な原因は心理的なものであり、機械論的な原因とされるインピンジメントは2次的なものである。

【治療2】 AMCTで身体的な治療後に、この症状の本質的な問題(感情的ストレス)を検査する。

この選手の感情的なストレスは、練習が面白くない→レギュラーになれない→三塁ライバルが面白くない→馬鹿にした態度→ライバルに対する「怒り」の感情で反応した。

写真5,6はライバルに対しての「怒り」の感情をイメージして右肩の内旋、外旋の可動域検査を行った。イメージすることによって左右の指先の感覚が開いた。

ライバルへの「怒り」の感情をイメージして内旋、外旋の可動域の検査を行うと両手の指先の間隔が開いて可動域の減少が確認された。

検査後、心身条件反射療法(以下PCRT)で「怒り」の感情的ストレスでブロックされていたエネルギーを開放する。開放されることによって、病的な神経機能の反射反応が解除され心身ともに緊張が取れられる。

写真7,8はPCRTによって感情ストレスのエネルギーブロックを解放された後の可動域である。

PCRT治療後、ライバルへの「怒り」の感情をイメージして内旋、外旋の可動域の検査を行っても両手の指先が接触できる。可動域の改善が確認された。

(写真1から8までの治療は、初検時のAMCT+PCRTの1回の治療である)

右肩外旋時の可動域
右肩内旋時の可動域
右肩外旋時の可動域
右肩内旋時の可動域
右肩内旋時の可動域
右肩外旋時の可動域
右肩内旋時の可動域
右肩外旋時の可動域

 

【まとめ】 この選手は2回目の来院時の再検査では、ライバルへの感情的ストレスには反応が出ず開放されたことが確認できた。サードからファーストへの投球練習でも痛みは無く、練習は全て他のメンバーと同じメニューを消化している。

スポーツ選手が現場へ復帰すると再発するケースが多い。原因を機械論的に考え構造重視のアライメント筋力などに視点を置くと改善されず長期化して、なかには選手生命を絶たれる選手も出てくる。

アライメント、筋力の問題も神経機能異常の結果であり、更にどうして神経機能異常が現れるのか本質的な原因を見つけ出すことが早期復帰につながる。本質的な原因を解決することによって肩の問題も解決し、野球に対する価値観も変わり練習意欲もわいてくる。その変化は選手の「顔つき」が変わることによって確認できる。

日本のスポーツ界は、いまだにコーチや監督が練習方法や練習内容に主導権をもち、チーム同一の練習内容を重視して、個人の能力に応じた練習内容にはならないことが多い。選手のストレスは身体的にも精神的にも限界に近いところで行っているのが現状である。現場の指導者や治療家は「こころ」の問題も見過ごしてはならない。

肘の問題は肩の痛みを庇ってフォームの変化が2次的に肘の内顆に負担をかけていた問題であり、肩が治れば肘にかける負担もなくなり肘の痛みも治る。特別治療の対象としない。