13歳 女性 右手に力が入らずピアノが弾けない(ピアノイップス)

 
報告者:篠﨑 大輔(バースデーカイロプラクティック

2017.10.20

 【問診】
1週間前から右手に痛みを感じ出しその後、右手首、右腕の力が入らなくなった。
まず整形外科に行ったところ、遺伝性、先天性のスワンネック変形が手指にあることからそれによる腱鞘炎と診断されたが特に治療はおこなわれなかった。
その後に整骨院で胸郭出口症候群の可能性を示唆され治療をおこなうが改善がみられないため当院に来院。

ピアノは産まれてすぐから母親もピアニストということもあり始めたとのこと。
1年半前頃に海外へ短期留学した際にそれまで指導してくれた先生との間でトラブルが起こった。
帰国後、中学校へ入学するが自律神経症状に悩まされ不登校に。
ピアノの指導者も変え現在は中学2年生で午後からの登校と部活に加入し参加もできている。
調子が改善されてきて、ピアノコンクールにも出ようと調子が上がっているなかでの不調だったため困っているとのことである。
【検査・治療】
1回目
・筋力検査
右肩甲上腕関節屈曲4/5
右肘屈曲・伸展4/5
右手指把握動作0/5
・症状イメージ、右肘屈曲でマッスルテスト陽性

全身の神経系を調整するためにアクティベータ治療をおこなった。
その後、PCRT治療をおこなったところ
義務-ピアノ関係-将来と反応したが、本人の思い当たるところはないということだったため文字情報だけで調整をおこなった。
次に、逃避-ピアノ関係-過去と陽性反応。
他人と比較されてピアノを辞めたいと思ったことがあるとのこと。
このイメージで調整。
理想の状態とは?と質問すると
自分の思う通りに弾きたいとのこと。
思う通りとはどういうこと?
楽しく、自分の思いが聴衆に届くように弾きたいとのこと。

症状イメージ、右肘屈曲の陽性反応が陰性反応になったため1回目は終了。

病院やピアノの先生からは痛い時はピアノを弾かない様にと言われているがどうすれば良いか質問を受けたため、
どうしたいですか?と質問を返すと
コンクールも近いから練習したい。とのことだったので
弾いても問題はないから、楽しく思いのままに弾いてくださいとアドバイス。
【検査・治療】
2回目
次の日に来院。
・筋力検査
右肩甲上腕関節屈曲4/5
右肘屈曲・伸展4/5
右手指把握動作0/5
・症状イメージ、右肘屈曲で陽性反応

全身の神経系調整のためアクティベータ治療をおこなった。
その後、PCRT治療をおこなったところ
エピソード記憶が反応した。
自分の右手が動かないイメージで陽性
右手がスムーズに動いているイメージで陰性
このイメージでエピソード記憶を調整。
次に、羞恥心が反応。
以前にコンクールに出た時に、前の演奏者が間違えたときがあり、その時側にいた係りの人に前の演奏者が間違えると嫌だよね、
と言われて実際に自分も間違えたのが恥ずかしかったという羞恥心が反応、調整をおこなった。
次に、警戒心-現在の先生が反応したが、思いあたることがないとのことなので文字情報で調整。

2回目が終わった夜に、弾けるようになりましたとの報告メールを頂いた。

【検査・治療】
3回目
来院時に状況を聞くと、帰宅後ピアノの部屋に吸い込まれるように入って行くと、
最初は動かしにくさがあったようだが、徐々に思い通りの動きができるようになっていったとのことでした。

【考察】 今回の症例は、ピアノイップスと思われます。

イップスは、精神的な原因などによりスポーツの動作に支障をきたし、突然自分の思い通りのプレーや意識が出来なくなる運動障害のことである。(wikipedia参照)

来院日の3日後にコンクールがあると言われた時には正直間に合うかわかりませんでした。
しかし、本人は間に合わせてきました。
それくらい出たかったコンクールなのでしょう。
コンクール後には、「金賞がもらえて、本選に行けることになりました。」というメールをもらいました。
お母様からは、聴いてくれた方々から「感動して鳥肌がたった」と口々に言われて、娘のやりたかった音楽がでたことが親として本当に嬉しかったです。とメールを頂きました。
音源も聴かせてもらいましたが、素人の私が聴いても素晴らしいと思うレベルで演奏されていました。
あるレベル以上になった人にイップスは起こりやすいと言われています。
本当の自分がわからなくなるレベルなのでしょう。
発症は1週間前ですが、背景にはこれまでの先生や他人との関係性が眠っていたと考えれます。過去に他人と比較され辞めたいと思った経験や義務、羞恥心、警戒心、エピソード記憶が関係していました。
キーワードに対して、本人が思い当たらないという部分もありましたが、おそらく本人の無意識のなかでは思いあたることがあったのだろうと推測します。文字情報だけで調整をおこなったことも改善に影響したと思います。
本人の無意識に眠る誤作動記憶に焦点を当て、反応をみていくことで、「建前の自分」と「本音の自分」に気が付いたことが調整が上手くいったポイントだと思います。
イップスの治療はまだ確立されたものがありませんが、PCRTの脳の誤作動記憶調整はイップス治療として期待が持てる治療だと本症例から私は思いました。