心身条件反射療法における感情の種類について
〜3名のクライアントの反応感情を集計することを通して〜

 

 
2014.2.3
てんびんカイロプラクティック 整体院
院長 野間 実
 
心身条件反射療法(以下PCRT)には、ハード面とソフト面による施術方法がある。ハード面には、関節、筋、筋膜、経絡などの施術がある。また、ソフト面においては、感情、五感、セルフイメージによる施術方法がある。
PCRTは他の徒手療法と比べて、特に特徴があるのはソフト面に対してアプローチをする施術方法があることである。
 
腰痛や肩こりといった症状が、ストレスが原因で症状が起きるというのは、最近一般的に広がってきたようである。日本国内では、長谷川淳史氏の『腰痛は怒りである』は2000年に初版が出版されている。
そして、日本整形外科学会と日本腰痛学会が監修されて2012年に出版された『腰痛診療ガイドライン』には、「職場における心理社会的因子が腰痛に与える」と書かれている。その中に例として書かれている心理社会的因子とストレスとは「仕事に対する満足度」「仕事の単調さ」「職場の人間関係」「仕事量の多さ」「精神的ストレス」「仕事に対する能力と自己評価」といったネガティブなストレスが例として紹介されている。
 
一方海外では、John E. Sarno, M.D.著作のHealing Backpain(1991年初版)がある。その中に「ストレスと緊張は混同される場合が多いが、人を試し、緊張させ、何らかの形でプレッシャーを与えるものすべてストレスと呼ぶ。」と書かれている。緊張とストレスを分け、ストレスという言葉を「人にプレッシャーを与えるものすべてストレスと呼ぶ」というように大きな意味でとらえているところは大変興味深い。しかし、「喜び」「連帯感」といった肯定的な感情や「意欲」「期待」といった意志的な感情が、症状に影響するとは書かれていなかった。
 
てんびんカイロプラクティック整体院に通われて間もない患者さんたちは、PCRTのソフト面の施術を受け、否定的な感情に反応が出ることに対しては、比較的受け入れやすいようである。しかし、肯定的な感情や意志的な感情が反応していると伝えると、患者さんの中には、戸惑われたり、驚かれる方もいる。しかし、肯定的な感情や意志的な感情が、症状に影響していることを丁寧に説明すると、多くの方は納得され、肯定的な感情や意志的な感情が反応することが当たり前のようになっていく。
PCRT研究会でも、受講されて間もない受講生たちも、肯定的な感情や意志的な感情について、戸惑われている姿をワークの時間に見られることがある。しかし、PCRTについて理解を深めていくと、次第に肯定的な感情や意志的な感情も否定的な感情と同じようにして影響するということが理解できてくる。
肯定的な感情や意志的な感情も否定的な感情と同じように、腰痛や肩こり、不眠、パニック症などさまざまな症状に影響している。
 
私は施術を通して、反応が出る割合は、感覚的にはほとんど同じ割合で肯定的感情、意志的感情、否定的感情の3つが反応しているように感じられた。
しかし、人の感覚による割合では信用性が乏しい。そこで、てんびんカイロプラクティック整体院でPCRTを行っている患者さんで、肯定的、意志的、否定的な感情がどのくらいの割合で反応するのか、3人の患者を例に集計を出してみた。
 

【患者】 男性、42歳、会社員(コンピュータ・プログラマー)、
奥さんと4歳の息子さんの3人暮らし
2011年6月に初来院し、2014年1月現在までメンテナンスを含め94回施術を受けられた。
【主訴】 肩こり、腰痛、足の痛み
【初来院】 2011年6月23日(木)~同年7月2日(土)・・・合計4回

主に構造を診るカイロプラクティックに約1年通った。しかし、そこでは治る気配を感じられず、「てんびんカイロプラクティック整体院」に来られた。
最初の3週間は週に2回のペースで施術を受けて頂いた。そして、はじめから4回目まではアクティベータ・メソッドで施術した。
【ソフト面の施術】 2011年7月11日(月)~8月8日(月)・・・合計6回

5回目からPCRTのソフト面からのアプローチを行った。最初は、仕事関係の聴覚情報といった五感に反応があった。以前の職場で、上司や同僚からの言葉に対する否定的なことが多かった。また、仕事中の姿勢が悪い事やお子さんの抱っこが影響しているといったセルフイメージの意味記憶などでも反応があった。

【〜現在】 2011年8月22日(月)~2013年1月現在・・・84回

2011年8月22日以降、現在までメンテナンスを含め症状があるときやほとんどないときでもいろいろな感情が反応した。否定的な感情は、主に仕事関係で反応がった。仕事内容や人間関係など様々なことで影響があった。
肯定的な感情は、主に家族関係や趣味関係で反応したが、仕事関係に対しても反応が見られた。
各感情で反応があった回数は以下のとおりである。
意思的感情
(24回)
好奇心(2回)、探究心(5回)、希望(2回)、期待(7回)、意欲(2回)、信念(7回)、高揚(1回)、戦い(0回)
肯定的感情
(72回)
A)一般的(32回)
喜び(12回)、楽しみ(12回)、充実(2回)、自由(1回)、安心(3回)、おかしさ(2回)

B)社会的(24回)
連帯感(7回)、愛情(4回)、保護(2回)、優しさ(3回)、安全(5回)、解放(0回)存在(3回)

C)優越的(16回)
優越感(5回)、自信(5回)、自尊心(2回)、勝利(2回)、所有(0回)支配(2回)

否定的感情
(62回)
A)一般的(26回)
恐怖(3回)、不安(12回)、当惑(5回)、空虚(2回)、不快(1回)、悲哀(2回)、失望(1回)

B)社会的(33回)
孤独(4回)、嫌悪(10回)、排除(7回)、怒り(10回)、嫉妬(1回)、閉塞(0回)、逃避(1回)

C)劣等的(3回)
劣等(0回)、不信1回、自虐(0回)、敗北(0回)軽蔑1回、拘束1回、恥辱(0回)

  以上のように意志的感情は24回、肯定的な反応は72回、否定的な感情は62回の反応があった。
   
  1名だけの集計では、個人的な性格による差異があることも考えられるので、同じく2011年から通って頂いている女性で反応を集計してみた。この方は、仕事(事務)が大変忙しいらしく、仕事の事でよくネガティブなことを言われる。だから、否定的な感情が他の人より多く反応しているように私は感じられた。しかし、以下のような結果が出た。
【患者】
女性 30代 派遣社員
【主訴】
肩こり 頭痛 生理痛など
【初来院〜現在】
2011年5月28日(土)に来られた。地元でカイロプラクティックを定期的に受けられていた。そこで、Oリングなどを受けていたので、PCRTの施術も抵抗なく受ける事ができた。現在まで、合計65回てんびんカイロプラクティック整体院で、施術を受けられた。
施術後は、かなり改善される。現在は3週間ごとにメンテナンスに来られている。
意思的感情
(9回)
好奇心(2回)、探究心(1回)、希望(3回)、期待(1回)、意欲(0回)、信念(1回)、高揚(1回)、戦い(0回)
肯定的感情
(10回)
A)一般的(3回)
喜び(3回)、楽しみ(0回)、充実(0回)、自由(0回)、安心(0回)、おかしさ(0回)

B)社会的(5回)
連帯感(2回)、愛情(0回)、保護(1回)、優しさ(0回)、安全(0回)、解放(2回)存在(0回)

C)優越的(2回)
優越感(1回)、自信(0回)、自尊心(1回)、勝利(0回)、所有(0回)支配(0回)
否定的感情
(13回)
A)一般的(2回)
恐怖(0回)、不安(1回)、当惑(0回)、空虚(1回)、不快(0回)、悲哀(0回)、失望(0回)

B)社会的(8回)
孤独(2回)、嫌悪(1回)、排除(1回)、怒り(0回)、嫉妬(0回)、閉塞(0回)、逃避(4回)

C)劣等的(3回)
劣等(1回)、不信(1回)、自虐(0回)、敗北(0回)軽蔑(0回)、拘束(0回)、恥辱(1回)
  意志的な感情9回、肯定的な感情10回、否定的な感情13回の反応があった。確かに否定的な感情が一番多いが、肯定的な感情との差は3回しかなく、ずば抜けて多くはなかった。
   
  3人目の方も2011年から2年間、合計119回の施術を受けられた女性である。この方も、いろいろと悩まれていたので、私は否定的な感情が多く反応していたように感じられた。以下のような結果だった。
【患者】 女性 30代 主婦
【主訴】 首・肩の痛み、呼吸しにくい
【初来院〜現在】 2011年9月20日に初めて来られた。肩と首の痛みがあり、呼吸がしにくいということだった。アクティベータ・メソッドで効果があったが、繰り返し症状が起きたので、PCRTで施術を行った。すると、過去の職場での悩みやトラブル、実家との関係で悩まれていた。

この方は2年間ほど、てんびんカイロに通われた。昨年(2013年)の8月から9月にかけて、コーチング・セッションを3回(合計180分)行った。

すると、過去の職場の件や現在の実家との関係に固執するよりも、現在ご主人と行っている仕事に集中することが重要だと気付かれ症状が緩和し、2013年9月から現在(2014年2月)までてんびんカイロには半年ほど来られていない。
意思的感情
(26回)
好奇心(4回)、探究心(3回)、希望(7回)、期待(5回)、意欲(4回)、信念(1回)、高揚(2回)、戦い(0回)
肯定的感情
(53回)
A)一般的(29回)
喜び(13回)、楽しみ(4回)、快い(2回)充実(2回)、自由(7回)、安心(1回)、おかしさ(0回)

B)社会的(18回)
連帯感(8回)、愛情(2回)、保護(0回)、優しさ(2回)、安全(1回)、解放(3回)存在(2回)

C)優越的(6回)
優越感(5回)、自信(0回)、自尊心(1回)、勝利(0回)、所有(0回)支配(0回)
否定的感情
(42回)
A)一般的(24回)
恐怖(8回)、不安(6回)、当惑(1回)、空虚(2回)、不快(1回)、悲哀(3回)、失望(3回)

B)社会的(12回)
孤独(5回)、嫌悪(1回)、排除(0回)、怒り(1回)、嫉妬(1回)、閉塞(1回)、逃避(3回)

C)劣等的(6回)
劣等(3回)、不信(0回)、自虐(1回)、敗北(1回)、軽蔑(1回)、拘束(0回)、恥辱(0回)
   
【まとめ】 今回は、長期的に来られている患者3名分の感情を集計した。3名分の集計は以下の通りになった。
意志的感情(59回)、肯定的感情(135回)、否定的感情。(117回)

意志的感情、肯定的感情、否定的感情の3つの感情では、意志的感情は他の2つの感情と比べ少ない。しかし、肯定的感情と否定的感情の差は、わずか18回しかなかった。
腰痛や肩こりといった症状は、一般的にネガティブなストレスが原因と言われている。しかし、今回の集計によると、ネガティブなストレスだけが症状に影響しているとは言えないことが改めて分かった。
ただし、肯定的な感情が反応していても、よくよく話を聞いていると否定的な意味になることもある。例えば、肯定的な感情の一つである「連帯感」が反応していても、職場の人間関係に悩まれていたということもある。

また、術者の私の設定により、他の術者に比べ、肯定的感情を拾いやすいということも考えられる。
次回は、そういったことを踏まえ、反応感情の奥深いところについて、肯定的な感情か否定的な感情なのかといった判断をすることや、複数の術者を通しての反応感情を集計し考察する課題がある。
参考文献・資料 長谷川淳史『腰痛は怒りである』春秋社2000年
John E, Sarno, MD Hearing Back Pain Wellness Central 1991年
日本整形外科学会 日本腰痛学会『腰痛診療ガイドライン』南江堂2012年
心身条件反射療法協会 感情チャート