心身条件反射療法におけるコミュニケーション術

 

 
2010.12.4
にしのカイロプラクティック院
院長 西埜 義則
 

はじめに

 
心身条件反射療法の創始者Dr.Yasuiは、Palmer College of Chiropracticにおいて、一般的にパーマー・パッケージとして知られているテクニック以外に、Sacro Occipital Technic やAtlas Orthogonal そして、Activator MethodとApplied Kinesiologyなどの高度な技術と知識を積み重ねられてこられた。
心身条件反射療法には、それらの膨大な技術と知識の中でも、特にApplied Kinesiologyの要素がぎっしりと凝縮されている。今回、心身条件反射療法の根幹をなす「神経反射による各種の筋力抵抗検査」にターゲットを合わせて、患者との「コミュニケーション・ツール」としての「徒手筋力検査」を考える。
 
 

Applied Kinesiologyの徒手筋力検査

 
1964年 アメリカのカイロプラクター George J. GoodheartJr.,,D.Cは、長年の臨床と研究により、からだの機能障害をみつけて評価する方法とケア・ システムを開発した。これをApplied Kinesiology(以下AK)と呼んで、全世界に広く普及している。
AKにおいて、私たちの健康は「構造」、「化学(栄養」)、「精神」の「三要素」から成りたつと考えている。この「健康の三要素」が等しく釣り合わなければ、不健康であるというわけである。
George J. GoodheartJr.,,D.Cは、「健康の三要素」に関わる「5つの項目」を分析・評価するツールとして、「徒手筋力検査」を用いる。この「徒手筋力検査」は、Henry Otis Kendall,P.Tの技術方法を基に発展した。
 

△George J. GoodheartJr.,,D.C
 
△健康の三要素
 
 
各種徒手筋力検査の評価の違い

 
メディカルの世界でおこなう「徒手筋力検査」とは、Henry Otis Kendall,P.T のもので、筋肉にどのくらい運動機能があるのか?また、安定性や支持を供給する能力があるのかを5段階評価でおこなうものである。
 
すなわち、神経筋疾患や運動器疾患の鑑別診断、予後、および治療に関して有用な情報を供給している。
 
AKでおこなわれる「徒手筋力検査」とは、筋肉とその神経受容器。および筋収縮に関連する生理学的反応を評価するツールであって、神経が筋肉を正常にコントロールできているのか?またはできていないのか?すなわち、「YES or NO」の2つである。
 
心身条件反射療法(以下PCRT)における「徒手筋力検査」とは、神経反射による「徒手筋力検査」で、潜在意識で起きている病的条件反射の有無を評価する方法で、さまざまな環境の下での適応障害の結果として生じる生体反応を「YES or NO」で分析する。

 
 
徒手筋力検査の手法

 
理学的検査としての徒手筋力検査
 
メディカル分野でおこなわれる徒手筋力検査は、個々の筋、または協力して動く筋群に対して順に行われる。多くの場合、筋を等尺性に収縮させた状態で徒手抵抗を加える、抑止テスト(ブレーキ・テスト)と呼ばれる方法で行われる。
 
まず、対象の筋を収縮させ、患者にその状態を保持するよう指示する。検者はその筋に伸張方向(または関節運動での逆方向)の徒手による抵抗を加える。その際の筋の収縮保持能力によって、5段階で評価し、判定する。
 
AKでの徒手筋力検査
 
検査の前に、この検査は「力比べ」ではなく、筋肉と神経の状態を検査するためのものであることを伝えて、抵抗するだけで十分であることを伝えておく。そして、検査時には目を開けて正面を見ること、呼吸を止めないように指示する。これは、オキュラーロックと頭蓋の影響を避けるためである。
 
1 患者に検査肢位をとらせる。
 
2 患者に押圧の方向と圧力を加えたときに抵抗するように伝える。
 
3 術者は該当する部位を固定し、圧力を加える部位に接触する。
 
4 術者は患者に合図することなく圧力を加える。(患者に随意で力を入れさせない。)      圧力は一定に数秒間保持する。
 
5 術者は検査中の肢位や体位の変化、そして抵抗の方向を観察する。
 
6 正常な筋は圧力を加え始めてから保持する間、「ロック」を生み出すことができる。(YES)  
もし、傷害があるときは、この「ロック」を生み出すことが不可能になる。(NO)

 
△腰筋と腹筋の徒手力検査
 

 

PCRTでの神経反射による徒手筋力検査

 
PCRTで使用する神経反射検査法には、下肢長検査(仰臥位・伏臥位)、筋力抵抗検査、フィンガー抵抗検査、フィンガー摩擦検査がある。今回は、筋の抵抗力で評価する「筋力抵抗検査」と「フィンガー抵抗検査」に焦点を合わせる。PCRTの検査ではAKと同じくしてどの筋肉を用いても検査は可能である。しかし、患者にかかる負担と治療の効率から考慮して、通常は大腿筋膜張筋もしくは中臀筋を使うことが多い。

 

大腿筋膜張筋を使った神経反射による筋力抵抗検査
 
 ・・・患者は仰臥位。膝関節伸展位で股関節外転位+内旋+軽度屈曲
 
1 患者を仰臥位にさせて、膝関節伸展位で股関節を最大内旋位+外転位+屈曲45度
 
2 患者に押圧の方向と圧力を加えたときに抵抗するように伝える。
 
3 術者は対側の足関節外側を固定し、圧力を加える検査側の足部外側に接触する。
 
4 術者は患者に合図することなく圧力を加える。(患者に随意で力を入れさせない。)      圧力と方向は一定で、対側の足部向かって大腿が内転+伸展方向に数秒間保持する。
 
5 術者は検査中の肢位や体位の変化、そして抵抗の方向を観察する。
 
6 正常な筋は圧力を加え始めてから保持する間、「ロック」を生み出すことができる。(YES)  
もし、傷害があるときは、この「ロック」を生み出すことが不可能になる。(NO)

 

フィンガー抵抗検査
 
 ・・・患者の身体を使わず、術者の示指と中指を用いた1人でおこなう検査法
 
(第1法)
示指のMP、PIP、DIP関節を伸展位に保持し、中指の指先を示指のDIP関節にあてて示指が伸展位を保持できるかどうかを評価する。
示指の伸展位の保持は「YES」を意味し、保持できない場合には「NO」を意味する。
 
(第2法)
中指のMP、PIP、DIP関節を伸展位に保持し、示指の指先を中指のDIP関節にあてて中指が伸展位を保持できるかどうかを評価する。
中指の伸展位の保持は「YES」を意味し、保持できない場合には「NO」を意味する。
第1法の感度が鈍いときや、第1法のダブルチェックとして第2法を使用する。また、左右のどちらの手でも検査ができると、より精度が増して検査自体が安定する。
 
筋力抵抗検査とフィンガー抵抗検査の2つの検査方法は、筋肉の抵抗を感じることが検査であり、決して「力比べ」をしているのではないということが重要な点である。その意味においては、過去のテキストで表記されていた「筋トーヌス神経反射検査」、「フィンガー筋トーヌス神経反射検査」は、「筋のトーンを感じる。」と、いうイメージをしやすいかもしれない。
 
筋の異常なトーンを感じることで、患者の抱えるエネルギー・ブロックの存在を感知することが可能であるため、患者の訴える症状が筋骨格系のものであれば、筋肉、関節、肉体内外、そして症状部位のエネルギー・ブロックを、フィンガー抵抗検査をおこなうことで、患者の口から「ここが痛む。」と、いった言葉を聞く前に、術者から「ここがお辛いですね。」と、感知することも可能になってくる。これが、患者とのコミュニケーション方法としては、最も強力なものの一つとなる。

 

 

コミュニケーション術の実際

 
コミュニケーション (交流)は、複数の人間や動物などが、感情、意思、情報などを、受け取りあうこと、あるいは伝えあうことである。 コミュニケーションによって、受け取られる、または伝えられる情報の種類は、感情、意思、思考、知識など、様々である。
 
コミュニケーションは、その相互作用の結果として、ある種の等質性や共通性をもたらすことも少なくない。人間は、他人に対して自分の心の状態を伝えることで働きかけるだけでなく、他人から受け取った情報により、相手の心の状態を読み取ったり共感したりすることが可能である。
 
いつの時代も、その時代なりに強いストレスはあった。人間が人間たるゆえんは、集団生活の中でどのような状況であれ、人との関係を支えにして生きてきたということである。人間には、周囲の人たちや相手の人達の「心の動き」を察する能力を本来持っている。だからこそ、人間は集団で生活できたのである。
 
人間関係の根本にある「共感」とは、他人の悩み、苦しみ、悲しみを理解し、自分のことのように悩んだり、他人の喜びを自分のことにように喜ぶことができる能力をいう。実際に、当人のように悲しんだり喜んだりはできないまでも、その人の立場に立って想像して、その感情を理解できる能力は、PCRTのセラピストとしては要求される。
 
患者とのコミュニケーションによって、伝えられる情報の種類は、感情、意思、思考、知識、記憶など、様々である。一般的に受け取るまたは伝えるための媒体としては、言葉、表情、ジェスチャーなどが用いられているが、PCRTでのコミュニケーションとは、患者へ投げかける「言語」と、患者に「イメージ」させることで起きる神経反射を用いた筋力抵抗検査である。
 
この他、患者の訴える症状と関連するエネルギー・ブロックを特定することも、「神経反射による各種の筋力抵抗検査」によるコミュニケーションといえる。エネルギー・ブロックの起こる箇所には、肉体内外、症状部位、筋肉、関節、経絡、チャクラなどが考えられが、患者が訴える前に術者が症状部位を特定することで、患者は自身の身体を預けても良いという安心感が得られる。
 
たとえば、肩関節の運動痛を訴える患者の関節可動域を検査するとき、外転運動をさせた時に、どの角度で痛みがあらわれるのかを、フィンガー抵抗検査でエネルギー・ブロックがあらわれる角度を探す。
 
その他、背部や腰部の痛みを訴える患者の背中を、右手でスキャンしながら左手でフィンガー抵抗検査をおこなうと、患者が痛みを訴える前に障害部位の特定が可能になる。
 
このように、「神経反射による各種の筋力抵抗検査」を駆使して、患者から発せられる「ボディランゲージ」を如何に読み取るのか?ここに、PCRTのコミュニケーション能力が問われることになる。そして、このコミュニケーションで患者と「共感」することが可能になり、患者からの信頼を得ることが可能となり、強固なラポールを築くことができる。

 

 

結びとして

 
私はAK100時間コースを受講した後、AKのディプロメイトを有するアプライド・キネシオロジストたちの講義を受ける機会に恵まれた。彼らの共通しているものは、AKの創始者であるGeorge J. GoodheartJr.,,D.Cへの「尊敬の念」と、創始者とインストラクター達から教えられた「徒手筋力検査」の技術と評価方法である。
 
PCRTにおいて、マスター認定療法師の資格を有するセラピスト達の「治療の進め方」や「切り口」は、ディプロメイトを有するアプライド・キネシオロジストと同様に、それぞれの個性が見受けられるが、共通の言語としての「神経反射による各種の筋力抵抗検査」は揺るぎのないものである。
 
カイロプラクティックには「サブラクセイション」、アクティベータ・メソッドには「神経関節機能障害」、中国医学には「気の流れ」、そして心身条件反射療法には「エネルギー・ブロック」という治療のターゲットがある。
 
PCRTをおこなう上で、患者が訴える症状の原因であるエネルギー・ブロックが、「いつ?どこに?」存在し、「どのように解放するのか?」を知り得るためには、安定した神経反射による筋力抵抗検査が求められる。
 
患者から発せられる「ボディランゲージ」を、「神経反射による徒手筋力検査法」で読みとることは、患者とのラポールを構築するための、重要なコミュニケーション・ツールの一つということができる。