スポーツ障害発生の機序を心理的側面からみた一考察

 

 
2009.3.15
カイロプラクティック・コンディショニング・ルーム・K
院長 菊地 光雄
 
はじめに
 
現代医学のスポーツ医学分野ではスポーツ傷害を大きく分けて二つに分けている。一つは、明確な原因が無く発生機序もわからずスポーツ中にいつのまにか症状を訴えるスポーツ障害を「使い過ぎ症候群Overuse syndrome」(以下:使い過ぎ症候群)といい、過剰な練習、高強度な練習、体力の低下など複数の要素が絡んで発生するといわれている。
 
もう一つは、急性外力など明確な原因があり、一過性の急性外力が大きく影響をしてアクシデント的要素で発生する。打撲、捻挫、骨折、脱臼など急性期の外傷を主訴としたスポーツ外傷である。
 
これらのスポーツ障害やスポーツ外傷に共通した発生要因がある。選手の身体構造と外的環境が影響しているといわれている。また、現代医学の治療法も共通して身体構造の治療のみを行う構造重視の治療が一般的である。
 
筆者の治療院にスポーツ傷害で来院している選手の多くは整形外科など専門医療機関から転院してくる選手が主である。転院してくる選手の急性外傷、使い過ぎ症候群ともに症状の改善が緩慢で、先の医療機関での改善度も低くスポーツ現場から長期的に離脱している選手もいる。
筆者の臨床的経験から傷害治癒の遅延、現場復帰への意欲減退に選手の「こころ」が影響していることがわかる。傷害を負った選手は身体のみではなく「こころ」にも影響し、傷害によって練習ができない、指導者、同僚との人間関係、選手としての地位などさまざま「こころ」の心理的な問題で選手は葛藤していることがうかがえる。
 
もう一つ、スポーツ傷害を起こした選手を問診すると注目すべき点がみえてくる。「ケガを起こす前に動きが鈍かった」「最近、練習の意欲がなった」「指導者がいや」「ライバル意識」など心の問題でスポーツ参加へのモチベーションが低下していることが多い。
 
筆者は施術方法の中に「心身条件反射療法」を取り入れて「心と身体の関係」に目を向けスポーツ選手の施術を行っている。「心身条件反射療法」の施術後は、モチベーションが高まりその結果、早期改善がみられ早期復帰、復帰後の再発が少なく結果がいい。
 
選手の「心と身体の関係」をみていくと傷害発生の機序に心理的要因が大きく影響していることがみえてきた。
 
選手の心理的な要因が脳(心)を含めた神経機能異常を引き起こし「共縮」という脊髄反射機能の乱れを生じることも解明された。この「共縮」は運動器系の主活動を担っている筋肉活動には致命的といえる現象である。
 
スポーツ傷害の発生する過程において背景的に心理的要因が関わっていることを「心と身体の関係」を心身条件反射療法をとおして考察してみる。
 
 
神経機能と運動機能
 
スポーツを行う上で運動機能は重要な役割をしている。主になって機能する器官は「神経系」と「運動器系」の連係である。すなわち、神経系の働きによって筋肉の活動をする。 
 
筋肉の働きを統括する神経系は、「中枢系」と「末梢系」があり、身体内外の情報を末梢系から中枢系に集め、中枢系から末梢系に伝達する仕組みである。もちろん他の各系との関わりもあるが他の系は割愛する。
 
身体運動を遂行する際に働く神経系の機能は大まかに二つに分けることができる。意識的に筋肉をコントロールして動かす「随意運動」と、無意識で反射的に動く「不随意運動」がある。「随意運動」と「不随意運動」が身体運動の遂行に大きな要因として関与している。
 
「随意運動」は意識つまり「脳(運動野)」が運動の指令を出し、それが延髄や脊髄を経て筋骨格系に伝達されて機能する。例えば、投手が一塁走者に牽制球を投げる際に、牽制するために一塁方向に投げやすい姿勢をとり、一塁と打者を交互に見ながらするのは意図的な脳からの指令で動作が行われている。
 
一方の「不随意運動」である無意識の動作は「脳」への経由がなく直接脊髄を経由して反射的に反応する「脊髄反射」で機能する。例えば、牽制する姿勢は意識的な意図した動き。牽制しながら一塁走者が走ろうとして動いた瞬間にボールを投げるのは無意識の反射的な動作である。
 
もう少し簡単にいうと熱いものに触れたときに咄嗟に手を引っ込めるのは典型的な脊髄反射の機能による防御反応である。ことときは意識的に「熱いから手を引っ込めよう」などと考えて動作を起こしていたのでは火傷をしてしまう。
 
また、脊髄反射は姿勢を安定させるための姿勢制御にも機能している。この二つの「随意運動」と「不随意運動」を意識的、無意識的に組み合わされ正常に機能することで日常動作やスポーツ動作に必要な筋骨格系の機能が遂行されて高度な身体運動ができる。
 
 
相反神経支配
 
歩行動作を思い出してみると、歩行するときに意識的に右足を前、左手を前、左足を後ろ、右手を後ろと指令を出して歩行している人はいない。歩行動作における左右の手足の動きは無意識の脊髄反射が機能しているからである。
 
歩行中に前に障害物があり避けるときは意識的な脳の関与があり、脳からの指令で大まかな歩行進路を決めるために筋骨格系に働きかける。このように意識的、無意識的に筋骨格系に指令が伝達され目的に向かって歩行運動が遂行される。
 
このときの筋肉の機能は主動筋と拮抗筋との相反する共同作業になる。歩行動作の機能は関節運動であり、その関節運動は筋肉に依存し主動筋と拮抗筋との交互の筋活動が行われている。主動筋が収縮し、拮抗筋が抑制される。つまり主働筋群の働きによって拮抗筋の神経、活動が抑制される現象の事である。この神経支配を「相反神経支配」という。   
 
この「相反神経支配」は「不随意運動」であるが、このときに意識的な「脳」の関与で「相反神経支配」が乱れることがある。
 
 
「共縮」現象
 
関節運動は関節関連筋の主動筋と拮抗筋と収縮(興奮)、抑制(弛緩)とが交互にリズムよく機能することで関節運動が正常に機能する。このときの神経の働きも「不随意運動」である。しかし「ライバル意識」や試合前の「勝たなければ」といった「意識(脳)」の関与が脊髄反射システムの乱れを生じさせる。このときに「相反神経支配」の機能異常がおきる。「相反神経支配」の機能異常は、主動筋と拮抗筋が同時収縮をおこし筋肉のこわばりを生じさせる。ロボットのような硬い動きである。最近ではHNKの番組で取り上げたことで有名になったアサファ・パウエル選手の例がある。俗に言う「試合で硬くなって動きが悪い」状態である。このときの筋肉の同時収縮現象を「共縮」という。
 
「共縮」現象は主動筋と拮抗筋が同時収縮し関節運動の伸展、屈曲が制限され可動域が減少し身体が固まった状態になる。この「共縮」現象をアサファ・パウエル選手の走動作に当てはめて説明すると「走動作に不可欠な四肢交差運動メカニズムの下肢の大腿四頭筋とハムストリングスの筋肉の収縮形態が、ライバルを意識した瞬間に下肢の走動作筋の主動筋と拮抗筋が同時収縮をおこし筋肉の緊張が高まり、関節可動域が減少し走動作のメカニズムが乱れた状態」といえる。
 
すなわちぎこちないロボットのような動きになってしまい関節可動域の減少、柔軟性の欠如、緩慢な動作が生じ俊敏な運動機能を低下させ、その結果、筋骨格系の運動機能異常を起こし走動作の乱れが生じたといえる。
 
 
心理的ストレスで脊髄反射メカニズムの狂い
 
身体運動メカニズムは意識的(随意運動)な働きと、無意識的(不随意運動)な働きの共同作業で筋骨格系をコントロールする。正常な脊髄反射機能が身体運動を遂行できることを一連の神経の働きで説明してきた。特に不随意的な脊髄反射機能はスポーツ活動時の機敏な動作や予期せぬ出来事に瞬時に反応対応するためには必要不可欠の神経反射反応である。
 
前述したように不随意的(無意識)に反応している脊髄反射機能が脳(意識)の関与で乱れることがある。言い換えれば「意識」で脊髄反射機能が乱れる。良い例が試合前のプレッシャーである。プレッシャーに強い、弱いと表現されることがある。「勝たなければ」「負けたくない」と試合前には意識的に思考や感情が湧き上がってくる。無心になることができるのは少数である。無心、無欲は意識が関与しない無意識の境地である。
 
筆者も経験あるが優勝したときなどは試合の流れを覚えていないことが多い。時間経過が早く気がついたら終わっていた経験がある。このときは勝ちたい、勝たなければなどと考えていないと記憶している。
 
この無心、無欲の境地は「意識」が働かず、試合の状況(相手の動きなど)に反射的に反応し適切に対処している。相手の動きに敏感に反射的に反応する運動能力を身につけるには「体で覚える」というように何度も何度も反復的な練習を行うことで身につく。 
 
この反復練習を神経生理学的に「手続き記憶」という。「手続き記憶」は「意識に想起されない記憶」で無意識的(潜在意識)な長期的な記憶として脳に刻まれる。
 
試合中に相手を過剰に意識し「負けないぞ」「勝つぞ」という意識は脳が関与してくる。正常に機能していた脊髄反射機能が意識的な脳の働きで脊髄反射レベルの神経伝達が干渉を受けて脊髄反射機能の不随意運動に乱れが生じる。
 
NHKスペシャルで放映されたアサファ・パウエル選手の2007年に大阪で行われた世界選手権大会の100M決勝でのレースの敗因を「心と身体」の関係を映像で解明している。
 
このときの身体運動メカニズムにどのように乱れたのか映像で再現し、そのときの現象が「共縮」である。アサファ・パウエル選手が全力で走っているときに隣のラインを走っているライバルの脚がアサファ・パウエル選手の目に入った瞬間(このときにライバルを意識する)に走りのフォームが乱れ、上半身から指尖、下半身と異常な筋肉の緊張が起こり本来の走りができなくなって失速していく。まさにライバルを意識した脳の関与で無意識の脊髄反射が機能しなくなった現象である。
 
スポーツ傷害に目を向けてみる。スポーツ傷害の発生要因、傷害予防、パフォーマンスの向上にスポーツ医学の評価に「関節の柔軟性」「敏捷性」が必ず評価される。「関節の柔軟性」「敏捷性」の欠如によって身体動作の予期せぬ出来事に反射的に対応できなければ急性外傷につながるリスクは高くなることは想像できる。
さらに、慢性的な「関節の柔軟性」「敏捷性」の欠如は身体動作に重要な関節運動にも影響を与え各関節の負荷が増大し、小さな力学的、構造学的刺激でも傷害の発生要因となる。
 
 
心理的なストレスによって「関節の柔軟性」「敏捷性」の欠如は日々の臨床でも経験できる。ここに筆者の治療院での2症例を紹介する。
 
 
症例1
 
野球選手の「インピンジメント症候群」(整形外科の診断名)に対して、アクティベータメソッド(以下AM)の施術を行い、術後は患側の痛み軽減し肩関節の肩回し(投動作)運動可能になる。
その後、両側の肩関節を同時に「肩回し運動」(投動作を連続で10回くらい)を心理的なストレスとなるライバルを意識しない場合と、意識した場合で行うよう指示する。このときライバルを意識した場合と、意識しない場合では明確に肩関節の「関節の柔軟性」と「敏捷性」に健側と患側で違いがでた。もちろん意識したほうが患側の可動域の減少と回転速度の減少が顕著に現れた。(「心身条件反射療法」公式HPに症例報告あり。)
 
 
症例2
 
左膝蓋靭帯炎のテニス選手。膝関節痛以外にも走動作で左膝が挙げにくい(腿挙げ動作)と訴えあり。左右の腿挙げの状態を評価するために選手を壁に踵、臀部、背部、後頭部を接触させ立位で通常の歩行リズムで左右の腿挙げ動作を行うよう指示し、左右の膝の高さを評価する。右膝120度、左膝が80度。左膝は90以上挙上できなかった。
 
AM施術後に再評価する。左膝は110度まで改善する。さらに心理的ストレスが影響しているか心理的ストレスをイメージした場合と、イメージしない場合で左右の腿挙げを行うよう指示する。この選手の心理的なストレスは「練習中の指導者に対する感情」である。指導者に対する感情をイメージして行うと左膝が90度、右膝110度と減少した。
 
2つの症例から、不随意運動の脊髄反射システムが意識的な心理的ストレスの関与によって機能が乱れ「相反神経支配」の乱れ、さらに「共縮」現象がおき筋肉の緊張が高まって「関節の柔軟性」「敏捷性」が低下したと考えられる。

身体運動のなかでこのような現象(脊髄反射機能異常)が生じているときは、各関節周辺の機械的受容器の機能低下が起り、関節の位置的情報の混乱も生じていると考えられる。  
特に足関節周辺には「圧受容器」いう身体の位置と地面の支持を感じ取り、重力かにおける姿勢安定維持には頭部と足からの情報交換する重要な受容器がある。身体位置と位置、支持を感じ取るにために圧受容器がモニターとして圧分布、すなわち姿勢変化や足関節の位置、位置異常にともなう圧分布の異常を中枢系と末梢系と情報交換して修正するのに機能している。
 
脊髄反射機能の低下は圧受容器を含めた機械的受容器の働きも低下させ、中枢と末梢の情報の伝達、指令が混乱し、予測できない外力に混乱した情報は反応できない関節に異常な可動域が強いられ傷害を引きこす可能性は高くなるといえる。
 
スポーツの特徴としてルール内で相手の動作の裏をかくことが勝敗を左右するものであるため、裏をかかれて予測できない動作を要求されたときに瞬時に反射的に反応できなければ負ける。負けないためには反射的反応の能力を高める必要があり、当然スポーツ傷害のリスクは高くなる。
急性外傷以外の「使い過ぎ症候群」も同じような傷害メカニズムによって発生すると考えられる。
 
 
無意識的な心理的ストレス
 
前述した「共縮」現象を引き起こす心理的ストレスは「ライバル」「勝たなければ」という意識的なストレスであった。もう一つの心理的ストレスは無意識のストレスである。この無意識のストレスは潜在意識ともいえる。無意識、潜在意識とはそれぞれ専門分野の解釈の仕方で違いがでてくる。ここでは「意識に想起されない記憶」と解釈する。
 
「意識に想起されない記憶」には「手続き記憶」がある。「手続き記憶」には3つあり、その一つは、「身体で覚えた」記憶などがある。自転車の乗り方を覚えたら次から乗り方を意識して乗る人はいない。自転車の乗り方、楽器の扱い、ダンス、スポーツの動作などは大脳基底核で学習することで記憶に変わり長期的な記憶になる。
 
二つ目は、ある条件の刺激に特定の反応を示す。「パブロフの犬」で有名な「条件反射」である。この条件反射は「良い条件」で起こる「古典的条件づけ」といわれている。反対に「悪条件」で起こる「オペラント条件づけ」がある。この「悪条件」で起こる「オペラント条件づけ」は大脳基底核が働くだけでなく、情動の中枢でもある編桃核が海馬による記憶の定着に影響を与えるといわれ、怖い体験、うれしい体験は記憶に強く残ると考えられている。この条件づけは情動と関連しているため心の動きに反応する。心理的ストレスとしては大きく影響をしている。
 
三つ目は、「プライミング」といわれ、先に来たものが後に影響を与える。例えば関連性のない単語リストをみせた後に、別の単語リストをみせる。そのときに単語のなかに欠落があり「○師」と見せると最初のリストの中に「医師」が含まれていると「医師」と答える。これも「意識に想起されない記憶」である。
 
これらの「手続き記憶」は膨大な量を大脳に生理機構として記録し、意識に再生されるものもあるが、大部分の記憶は再生されず大脳の記憶の貯蔵機構のなかで維持される。膨大な記憶は、個々ばらばらに孤島の集団のように存在するのではなく、連想が記憶を引き出すように感覚的、意味的、感情的に連係的にグループ構造を持って大脳の神経細胞のネットワークのどこかに記憶され、この再生されない膨大な記憶は「意識外」あるいは「意識でない領域」に存在し無意識、潜在意識として潜んでいると考えられる。
 
 
受動的な意識
 
もう一つ「無意識」「潜在意識」を説明するのに「受動意識仮説」がある。『「意識」とは「無意識」下の情報処理の結果を受け取り体験した後にエピソード記憶するための受動的、追従的なシステムである。』(錯覚する脳:前野隆司著から引用)というものである。
 
自由意志であるかのように体験する意図的な言葉や行動、あるいは意思決定も意識がはじめに行うのではなく、無意識下で処理された結果、意識に流し込まれた追従的なシステムと考えられている。
 
例えば、「よーい、ドン」という音を聞いて走るのは、音を聞いて走り出すと意識的に決めたのではなく無意識下で情報処理が行われた結果「走り出そう」と決定された結果であるが、意識が「走り出そう」と決定したように思われている。
 
意識、無意識を一連の時間の流れで証明した「リベットの実験」がある。人が指を動かそうとするとき「動かそう」と意図する自由意志と、筋肉を動か沿うとする指令する脳のニューロン運動準備電位が、どんなタイミングで活動するかを計測した実験である。
 
結果は、筋肉を動かすための運動準備電位は、意識下の自由意志が「動かそう」と意図する瞬間よりも0,35秒も先に活動している。常識的に考えると「自由意志」が「動かそう」と決断し、それに従って身体が動くと思っているが逆である結果がでたというものである。
 
心理的ストレスというと一般的には顕在意識的なストレスはもちろん、五感で得た過去の体験(情報)は脳の中で記憶され維持され「無意識」「潜在意識」として人間の心に関与し神経系に何らかの影響を与えていると考える。
 
 
まとめ
 
情動、感情といわれる心理的ストレスは「意識」「無意識」に関わらず神経系に大きな影響を与え、身体運動に関わる脊髄反射機能を著しく低下させ、その結果「共縮」現象を引き起こし主動筋、拮抗筋の同時収縮という筋肉機能低下がおきる。運動機能には致命的な現象といえる。さらに主動筋、拮抗筋の同時収縮による筋肉の過緊張は「関節の柔軟性」「敏捷性」を低下させ急性外力や反復される外力に対応する能力も減少する。
 
このような身体状況下で練習や試合でアクシデント的な一過性の外力が引き金的になり捻挫や骨折という急性外傷が発生する。また、反復性の外力が繰り返されると使い過ぎ症候群といわれるスポーツ章害が発生する。スポーツ傷害の発生リスクは高くなることはもとよりパフォーマンスも著しく低下する。
 
現代医学のスポーツ傷害の「外的要因と個体的要因が複数相互的に関与した際に発生する。」との考えに否定するものではない。しかし、個体的要因の心理的要因(心)に目を向けているスポーツ医学の専門家やスポーツ指導者は少ない。
 
選手の心理的ストレスは、前述したような身体運動に欠かせない神経機能の働きに大きく関与していることは神経生理学的に否定できない。さらに、心理的ストレスは「心」に良くも、悪くも影響を与えることは心身条件反射療法をとおしてみた場合には間違いない事実である。「指導者の言葉」「ライバル」「試合の勝敗」「人間関係」といったスポーツにまつわるストレス以外にも、日常の友人、家族など何気ない人間関係からも潜在的ストレスとして干渉してくる。
 
このようにスポーツ傷害の背景には「心理的なストレス」が関与し、神経機能異常による脊髄反射機能の低下、共縮現象、身体運動機能低下と図式化され、急性外力、反復性外力が引きかねになりスポーツ外傷、障害の発生を機序的にみることができる。
 
この図式は臨床的にみても矛盾がなく、この図式に則り「神経機能異常の改善」「心理的ストレスの開放」を主とする施術が効果をあげ、現場復帰に長期的な時間が必要とされるスポーツ傷害の早期復帰が可能になることを筆者は臨床的に日々経験している。
また、施術者も選手の心理的な側面のアプローチは必須で現場の指導者との連係を密にして選手が現場復帰の意欲が高まるような環境づくりが重要であるといえる。
 
 
参考文献
 
「錯覚する脳」前野隆司著 筑摩書房
カラー図鑑「脳のしくみ」 中村克樹監修 新星出版社
NHKスペシャル:ミラクルボディー「アサファ・パウエル~史上最速の男」
CCRKホームページ 症例報告
心身条件反射療法 症例報告投稿