意識的なストレスと無意識的なストレスが自立神経系に与える影響

 
報告者:菊地 光雄(カイロプラクティック・コンディショニング・ルーム・K

 

乳癌摘出手術後の「乳癌再発」の意識的なストレスに隠された無意識のストレスが、自律神経系にどのような変化を与えるか、自律神経を可視化した症例報告
 

  CCRKでは患者の感情的ストレスを評価するために自律神経をAPGハートレーターSA3000P(東京医研)を使って可視化して数値で評価している。今回の症例は自律神経の評価項目を「交感神経対副交感神経のバランス」とストレス度の指標となる「SDNN」の二つで評価した。
交感神経と副交感神経のバランスは日中の正常比率は「交感神経6対副交感神経4」が理想的である。交感神経と副交感神経のバランスが崩れどちらか一方的に優位になると「生命維持」のための機能が低下し健康上の不調を訴えるようになる。
SDNNはストレス度を数値化したものである。SDNN数値は年齢的な標準数値がありこの年齢的標準数値が極端に低下してしまうとストレスに対する対処能力が低下して健康上の問題が高くなる。交感神経と副交感神経のバランスおよびSDNNの年齢的標準数値を維持するか高めることが心身の健康になるための条件と考えられる。
今回の症例は、「意識的感情的ストレス」と「無意識的感情ストレス」が交感神経と副交感神経のバランスおよびSDNNに対して数値的にどのような影響を与えているか、初検時の治療前後とその後4回の治療後の変化を評価した。
「意識的ストレス」は乳癌を摘出手術で予後の「再発の不安」「薬の副作用」「兄弟の癌」などがあった。「無意識的ストレス」は生活の将来的な「先行き不安」が顕著にあった。ストレスの検査法と治療法はAMCT(アクティベータメソッドカイロプラクティック・テクニック)と「心身条件反射療法」で行った。

【患者】 60歳代 女性 独身 パート
【初検日】 平成20年4月28日
【主訴】 全身痛(特に両側肩部、腰背部痛) 両手指のシビレ感とこわばり 不眠 耳鳴り
観察的な他覚症状 イライラ感 話を聞かない 否定的な言動

【病歴】 19年2月19日 乳癌摘出手術 右胸部外上1/4部 その後定期的な検診で経過観察
主訴の発症は19年3月7日頃より始まり、日増しに強くなる

【治療歴】 癌手術後の定期的な抗癌剤の処方
肩こりや全身の痛みに対しては整形外科、整骨院で電気治療、マッサージ、シップを行う。改善せずCCRK受診する
全身の痛みと両手のシビレ等は抗癌剤の副作用ではないかと心配している。


 

 

  上のグラフは4月28日(初検日)の治療前から6月16日までの6回の測定のグラフである。
初検日のみ治療前と後に測定した。後の4回の測定は治療後のみの測定である。
赤色(LF)交感神経
緑色(HF)副交感神経
黄色折線(SDNN)
60代女性の標準SDNN 数値は35

【4月28日(初検)】 治療前
交感神経73対副交感神経27 交感神経優位
SDNN数値21 60歳代女性標準値より低い
治療前の意識的ストレス(抗癌剤の副作用)

治療後
交感神経69対副交感神経31 交感神経若干低下
SDNN数値34 60歳代女性標準値に戻る

【4月30日】 治療前の意識的ストレス(癌再発の恐れ)

治療後
交感神経64対副交感神経36 正常比率に近づく
SDNN数値31 標準値より若干低いが初検時より良い

【5月7日】 治療前の意識的ストレス(兄弟3人が癌)

治療後
交感神経53対副交感神経47 正常比率内
SDNN数値21 低下する
5月7日の治療で主訴となる全身痛(特に両側肩部、腰背部痛)両手指のシビレ感とこわばりは改善する。不眠は依然として入眠剤使用しなければ眠れない状態が続く。耳鳴りは若干残るも以前ほど気にならなくなる。

【5月14日】 治療前の無意識的ストレス(兄弟3人が癌なので遺伝的に癌になりやすい。私も予後が悪い。)といった思い込み的な感情が無意識あった。

治療後
交感神経45対副交感神経55 副交感神経優位型
SDNN数値15 低下する
無意識的なストレスがこの時点では思い込み的なストレスが表面化していたが、これは本質的なものではなく外堀的なものと思える。そのため思い込み的な感情を開放してもSDNN数値は低下している。

【6月16日】 治療前の無意識的ストレス(将来一人で生活する不安。)といった今後の将来的な健康や生活に対する先行き不安があった。
この先行き不安の感情は患者が意識できるレベルの感情ではなく無意識(潜在的)レベルの感情ストレスである。

治療後 前回の治療で不眠も改善。耳鳴り若干残るがほとんど気にならなくなった。
交感神経45対副交感神経55
SDNN数値32 標準数値に戻る

  5月14日から次回来院の6月16日までの間、本人は兄弟の癌末期の看病で来院できず1ヶ月間治療が空いたが、その看病の1ヶ月の期間、癌患者と接していたが「癌再発」といった「意識的な感情」は無かったと言った。すでに開放された感情的ストレスは影響ないようである。無意識的ストレスの開放でSDNN数値は標準値に近く戻った事は無意識的ストレスの自律神経に与える影響は大きいと考えられる。

【まとめ】 一般的に感情的ストレスというと日常の対人関係や仕事、生活など意識レベルの感情が思い当たるが、本質的な感情的ストレスは無意識的ストレスにあるのかもしれない。もちろん意識的な感情も自律神経には影響することはグラフを見ればわかる。意識的ストレスの裏に隠された無意識的ストレスを見逃すことは本質的な感情的ストレスを開放につながらないと思える。
今回は意識的ストレスの裏側に隠された無意識的ストレスの開放で自律神経の数値的な変化がみられたが、意識的ストレスでも無意識的ストレスでも患者が主訴となる症状が、どのような感情的ストレスが本質的な原因になっているか見極めることが重要と思える。
また、このように意識的ストレスや無意識的ストレスなどによる自律神経の乱れは筋骨格系の症状にとどまらず消化器系や循環器系、内分泌系などの他の系にも影響を及ぼすことは明確にされている。自律神経を数値的に管理することは健康維持につながる。そのためにも感情的な開放は必須の治療になるはずである。