投球イップス
症例テーマ:
●投球イップス
報告者情報:
●氏名:倉持怜史
●開業歴:10年
●PCRT歴:4年
●施術院名:接骨院くら
●初診年月日:2023年4月24日
●報告期日:2023年8月31日
症例要約:
結果判断: 完治 or 未完治 |
完治 |
治療期間: | 2023年4月24日〜2023年6月20日 |
通院回数: | 8回 |
一回の治療期間 | 45分以内 |
治療経過の良し悪し: | 良好 |
治療回数毎のスケール表
初回 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 | 7回目 | 8回目 | |||||||
症状の程度 | 8 | 6 | 6 | 6 | 6 | 4 | 3 | 3 | ||||||
症状に対する予期不安 | 10 | 10 | 8 | 8 | 7 | 5 | 4 | 3 | ||||||
CGI-I(改善の程度) | 3 | 3 | 3 | 3 | 3 | 2 | 1 | |||||||
CGI-S(初診時の重症度) | 6 | ←初回時のみ入力 |
はじめに:
お父様がイップス の治療をできるところを探している中で、学童野球の監督さんから当院を紹介して頂き来院された。
患者の愁訴:
- 上手く投げれない
- キャッチャーを座らせてのピッチングが特に
- 最近はキャッチボールも怪しい
- リリースポイントがわからない
- ボールを握る感覚がない
患者情報:
- 年齢:17歳
- 性別:男性
- 職業:学生
- 種目:野球
- 競技歴:12年
- 競技レベル:甲子園出場
- 患者の特徴(簡単に):素直 自分ではあまり考えず人に答えを求める 納得いかないことを飲み込む
- 発症時期:1年程前
発症からの経緯:
昨年の夏。コロナに感染し、自宅療養。
その後の練習試合で暴投し、その後も暴投が続いた。それから、ピッチングが安定しなくなった。
それまで、コントロールに絶対の自信があったが今は自信がもてない。
初回〜通院施術回数毎の記録
初回:R5、4月24日
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
イップスの投球イメージ(イップス の最初のきっかけ) | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法:PCRT認知調整法
補足説明:
「反応言語」とは、PCRT認知調整法の検査で用いる辺縁系領域に関連する言語チャートからPRT(生体反応検査法)によって陽性反応が示された言語である。臨床では「キーワード」と呼ぶことが多い。
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
イップスの投球イメージ(イップスの最初のきっかけ) 大脳辺縁系 |
復讐心 | 野球 →コーチの指導がコロコロ変わる →いうことが変わる どのような指導をしてほしい? →選手みんな同じではなく、選手それぞれに合った指導をしてほしい |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
イップスの投球イメージ(イップスの最初のきっかけ) | ○ |
2回目:8日後来院 R5、5月2日
患者コメント(愁訴):
- ボールの握る感覚が良くなった
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
投球イメージ 大脳辺縁系 |
義務 | 理想のピッチングをするべき →まずストライクを入れる →守備を考えた投球をする →良いテンポで投げる 良いテンポで投げるを大切にしている理由 →先輩の影響 |
陰性化 |
同上 | 忠誠心 | キャッチャーのリード →内野、外野が守りやすいように →キャッチャーのリードに忠実に キャッチャーのリードとあなたの思いの違いがあるとしたらどんなこと? →ボールが続いても、リズムよく投げ込んでいきたい |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
投球イメージ | ○ |
3回目:6日後来院 R5、5月8日
患者コメント(愁訴):
- ボールを握った感じ良い
- 5/5試合前のブルペン投球OK→試合中にイップス
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
試合中の投球 思いっきり腕を振るイメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
試合中の投球 思いっきり腕を振るイメージ 大脳辺縁系 |
虚栄心 | 監督・コーチに対して →自分は速球派のピッチャー →真っ直ぐを見てほしい →速球で3人で抑えて認めてほしい |
陰性化 |
真っ直ぐの速球で3人で抑えることが理想かもしれないが、自分を客観的に見てどんな投球をすればバッターを抑えられると思いますか? →変化球を交えて、タイミングを外したり・・・。 |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
試合中の投球 思いっきり腕を振るイメージ |
○ |
4回目:2日後来院 R5、5月10日
患者コメント(愁訴):
- 前回から練習はなく分からない
目安検査
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
試合中の投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AMベイシック
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
試合中の投球イメージ 大脳辺縁系 |
競争心 | 野球 →レギュラーになる (昨年まではメンバーに入っていた) →試合に出る |
陰性化 |
猜疑心 | 野球のコーチ →指導法に対しての猜疑心 |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
試合中の投球イメージ | ○ |
※4回目施術のポイント
最近は、色んなことを意識して投球していると思いますが、良い投球ができている時を振り返って、その時は何を意識して投げてますか?
と質問させていただいた。
『とにかくキャッチャーミットに向かって投げてます』と・・・。
何か気がついた様子で帰宅された。
5回目:5日後来院 R5、5月15日
患者コメント(愁訴):
- 前回と同様
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
試合中の投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
試合中の投球イメージ 橈骨骨系 |
恐怖 | →また暴投するのではの恐れ →その時の手、指の感覚が無いことの恐れ →手、指の感覚が無いことの何が恐れですか?と質問させて頂いた。 →今まで、ボールを握った時の感覚に自信がありそれを頼りに投げてきた。 |
陰性化 |
自尊心 | 今まではキャッチャーが構えた所へズドンと投げられて、絶対の自信があった。 →昔と今の自分のコントロールに対する自尊心 |
陰性化 | |
執着心 | 指の感覚へのこだわり →そこにこだわる理由は? →自分の得意なコントロール、投げ分けは理想の感覚があるから出来ると... |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
試合中の投球イメージ | ○ |
6回目:8日後来院 R5、5月23日
患者コメント(愁訴):
- 前回よりも良い感じ
- ボールを持つ感覚良い
- イップスが出る時はテイクバックの際に腕がおかしい
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
イップスが出る時の投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
イップスが出る時の投球イメージ 橈骨骨系 |
警戒心 | イップスが一球出たらまた出るのでは →感覚がないまま投げると暴投する |
陰性化 |
同上 |
猜疑心 | 陰性化 | |
同上 | 義務 |
→投げる際に、以前の調子良かった時の投球の軌跡をイメージするべき →いつ頃のイメージを理想としてますか? →高校一年の最初 →腕をしっかり振るべき |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
イップスが出る時の投球メージ | ○ |
※6回目の施術の考察
義務ー高校一年の調子が良かった時の投球イメージをして投げる
からの流れで、高校一年の時の良いイメージにこだわりが強く、その感覚に合わせよう、それを取り戻さなきゃということにしばられていた。
『昔と今は、体も大きく変わり同じ人間ではないのだから、昔の感覚を取り戻そうとするのって怪しくない?』
『今の身体に合った動き、感覚を探していくのはどうなの?』
『確かに...。』
『プロの選手も毎年、フォームも感覚も変化していき、アップデートさせていくよ』
7回目:7日後来院 R5、5月30日
患者コメント(愁訴):
- 投球良い感じ
- 30球投げたが、ほぼ大丈夫
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
ソフト面調整法: PCRT認知調整法
情報系EB 身体系EB | 反応言語 | 内容 | 調整後 |
投球イメージ 橈骨骨系 |
自省心 | 投球 |
陰性化 |
投球イメージ 橈骨骨系 ②情報 |
①イップスを経験したことがあるチームメイトがイップスは治りにくいという情報 ②自分の自己体験でイップスは治りにくいという意味付け |
陰性化 |
●目安検査の再評価結果:
陽性 | 陰性 | |
投球イメージ | ○ |
8回目:20日後来院 R5、6月20日
患者コメント(愁訴):
- イップス改善
- 『キャッチボール中に見つかりました』と。good
- スッキリした様子で来院された。
- 今の自分にあった投球を探そうという思いで、いつも通りのキャッチボールをしている際に見つけた様子。
目安検査:
●EB検査を目安検査とする
身体系&情報系EB検査部位と刺激・動作 | 陽性 | 陰性 |
投球イメージ | ○ |
ハード面調整法:
● AM
考察
野球イップス。
今回の高校球児は過去の自分の投球を追い求め、感覚を取り戻そう、リリースポイントを見つけようと過去の自分に執着する信念がイップス信号となっておりました。
そこに執着する理由として、コントロールに絶対の自信があり、周りもそれを評価していた。強豪校を相手にしてもそれを武器に抑えられたという。
練習試合での暴投をきっかけに、コントロールに対する絶対の自信が揺れ動き深みにはまっていった。
周りのコーチからのアドバイスを聞きすぎたことも抜け出せなくなった要因と感じる。
有名なコーチからのアドバイスを疑いもなく、素直に聞いて実践したようだが、聞けば聞くほどはまっていったという。
そして、コーチの指導に対しても疑問が生まれてきた。
『優秀なコーチかもしれないが、自分の体を分かっている一番の理解者は自分。抜け出すための答えは、自分の中にありますよ』
と伝えた当初はポカンとしていたが、抜け出してから、先生の言っていたことがようやく分かったと言っていた。
大脳皮質系の誤作動記憶も関与していた。
『イップスは治りにくいという情報』『イップスはフォーム、技術を改善する』
他のイップス患者も同じであるが、ひたすらにフォームを変えたり、技術に問題があると思い練習されている方が多い。
確かに、何年もイップスから抜け出せない方もいるが、すぐに治る方もいる。
しかし、何年も抜け出せない方の情報を信じている人が多い。
人は、知らず知らず、『情報』を五感から入力し『記憶装置』へ入れ、それを出し入れし、生活している。
本人が信じていること『信念』は本人の中での強いものではあるが、時には柔軟性も大切で誤作動となっているものにはその『信念』に遊びが生まれないと、頑なすぎて私の言葉がまったく入らず、症状に変化が生まれないことが良くある。
イップスにさせる心の混線が1日でも早くほぐれるために、PCRT認知調整法はとても有効であり、選手をはじめ、指導者含め多くの方に『イップス は治るもの』と知ってほしい。
今回の症例はスムーズに改善したが、中には改善が滞る方もいる。
何が難しいかというと1つに『頑な思考』である。
本人がそれを信じて、思い込んでいるのでなかなか、『他の思考』が入る余地がない。
臨床現場では、あれこれ試行錯誤でどのようにしたら患者のイップス信号に変化が生まれるか?を模索し、施術するがやはり『質問力』『コーチング力』が問われる。
これからもそれらを磨き、困っている選手、患者に貢献していきたい。